研究概要 |
第1の日本のTOBに関する研究については、TOB取引は事業上のシナジー創出が主たる動機であることを確認したが(Hanamura,Inoue and Suzuki,2011)、日本の少数株主保護が不十分であるため、TOB後に米国市場では観測されない大きな株価下落があり、株主に対してTOB応募を強いる強圧性が存在することを実証分析結果として示した(Inoue,Kato and Bremer,海外査読誌投稿中)。すなわち、取引自体としては価値創造効果をもつが、会社支配権に関する価格メカニズムが効率的に機能しているとは言えず、日本の法制度の課題を示した。 第2の日本のファミリー企業に関する研究では、戦前から2000年までの百貨店業界における経営者、株主構造、財務および株価に関するパネルデータ分析を行い、ファミリー企業はその他の企業に比較して過少投資ではないが、借入比率が高く、株式市場の評価は低いとの結果を得た(Obata,Inoue and Yokoyama,DP)。ファミリー企業に対する市場の懸念を裏付ける結果だが、この研究は分析途上にある。 第3のクロスボーダーM&Aと法制度の関連性の実証分析については、日本企業はクロスボーダーM&Aにおいて国内M&Aよりも大きな価値創出を行っていること(Ings and Inoue,MFA2012 proceeding)、LaPortaetal.(1998,2000)により少数株主保護と相関性の高いとされる法起源の違いが、M&Aにおける支配プレミアム、株式取得比率に影響を持つとの結果を得ている(Bremer,Inoue and Suzuki,DP)。ただし、後者の研究については他の要因を考慮した詳細な分析には至っておらず、今後の研究課題となっている。
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