平成22年度前半は、京都花街や宝塚歌劇など著名な日本のエンターテイメント産業の現場における人材育成について参与観察と文献研究を実施し、技能育成のための学校制度が産業の発展する初期の段階で制度として整備されていること、また学制度が社会環境の変化に応じて教育内容や選抜の方法が変革されていることを明らかにした。平成22年度後半は、10代の若者がエンターテイメント産業に新規に参入した場合、学校教育を通じて初期のキャリア形成が円滑にでき、さらにそのプロセスを一般の顧客が見られる機会があり、技能だけでなく顧客を引き付ける魅力の醸成も行われていることを明らかにした。また、国内の調査と並行して、平成21年度に予備調査したイタリアのバレエの業界の人材育成と興行システムについて調査結果の分析をすすめたうえで、11月に再度現地調査を行った。平成22年度の調査からイタリアのバレエ産業における人材育成は学校制度によってなされているが、学校には国立と私立があり、国立学校ではバレエの指導者の養成が主に行われ、劇場に併設された私立学校では日本のエンターテイメント産業と同様に、10代半ばから技能育成が開始され、技能の進捗に応じて国内外の公演に選抜参加し、人材育成と興行システムが連携をもちながら、継続的に人材が育成されていることが明らかになった。 エンターテイメント産業の興行システムでは、技能育成に応じた発表の場が学校で育成される段階から整備され、その後も経験年数が比較的少ない若手による選抜公演も実施され、トップスターが絞りこまれるため、個人のキャリア形成にとっても合理的で、顧客にとっては人材育成のプロセスを観劇の機会を通じて継続的に楽しめ、それが長期的な収益につながるという「劇場型選抜」の仕組みという新しい知見を研究成果としてまとめ、論文1件、学会発表2件、合計3件の実績として提示した。
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