平成22年度は、S市に進出した巨大企業S社が、S市の地域経済にもたらした経済的・社会的効果について分析を行った。具体的には、進出した工場の稼働以前と比較してのS市における住民数・雇用者数(若年者、正規、非正規その他)・交通量など複数のパラメータの変化に注目し、S市全体ではなく、おおまかには臨海部と内陸部(さらに詳細な個別地域)によってその効果に大きな違いがみられることがデータから確認できた。マクロな経済統計指標の分析では、S市における経済波及効果は認めうるが、地域の個別中小・零細企業群との連関ネットワークの形成については、進出以前に想定したほどには頑健かつ広範に取引ネットワークが形成されているとは言い難いことを、当該年度までの地域データの観察から確認した。(なお、東日本大震災の発生という想定外の事態もあったため、地域企業との連関ネットワークの生成評価については、最終年度まで長期的な観察・分析を行う必要があり、本時点での評価は最終的なものではない。)進出したS社の工場が主力とする生産品の性質上、上流及び下流過程の企業との膨大な取引連鎖を形成する必要がないこと、既存の地場産業が強みとする技術とS工場の生産工程で必要とされる技術のミスマッチがあることも明かになった。このミスマッチの解消は大きな課題であるが、行政・商工会等、地元企業とS社との間におけるネットワーク形成の適切な仲介役割を果たす存在が必要であり、この機能の担い手及びその仲介状況について、ヒアリングや文献資料整理も行っており、現在も継続中である。
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