産学連携実務家として、共同研究では運営できない産学連携を『共同事業』として、初めて、法令や大学の規則等に詳細な検討を加え、新制度を設計し、最初の適用事例を実装した。同時に、その意義を多面的に考察した。 通常の産学連携は、すでに顕在化しているシーズ技術をもとに開始する。しかし、それに反して、明確に社会的課題がありイノベーションを必要とし、大きな市場が開けるのは間違いないにもかかわらず、企業側は研究開発投資を本格的に実施するほどニーズに確信が無く、従って、的確なシーズを定義できないセグメントがある。ここでは、『研究者が最新研究成果を開示し、産業界と意見交換や議論をとおして新規ニーズ・課題を認識・着想する場』の設置と運営が有効である。事例として「少子高齢化社会」に対する具体的な「解」を探る「ジェロントロジーコンソーシアム」を設立した。制度設計の効果として、今回開発した『共同事業』方式を導入したいとする他大学が現れている。一方、このセグメントでの連携を目指す方式として、メンバーシップ制連携を導入しているカリフォルニア大学バークリー校担当者と交流し、この制度の調査研究を行った。 また、研究開発型民間企業の研究開発動向の実態調査のデータ(1009社対象、回答数235社)を元に、『何を求めて企業は大学へ「身銭を切って」研究費を支払うのか」』の解析を行った。一般的に考えられている10項目の中で、「高い研究能力」、「研究開発のスピードアップ」、「数理などに基づく基礎的研究」、「研究開発費の削減」が有意な検定結果を示した。大学研究者にとって、産学連携に積極的になることと大学研究者本来の研究を遂行することのジレンマが語られることが多いが、この解析結果によれば、大学研究者は研究の質を高めることで、産学連携が推進されていくことを示唆している。さらに詳細な調査を進める。
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