平成22年度は、日本と欧州を中心に、携帯電話と自動車の両産業について標準化やプラットフォーム化について企業調査を行った。こうした調査と並行して、両産業の産業構造、業界動向、技術についての先行研究や情報の収集を進めた。一方、国内外の学会やセミナーで発表を行い、関連分野の研究者や業界関係者と意見交換を行うことで、調査・研究の方向性を検討した。 平成22年度は、上記の両産業について、技術や知識の企業間でのオープン化を促す基本条件である、技術仕様の標準化について主要企業の戦略や条件を把握した。一方で、技術仕様の標準化と技術仕様を実際に製品化していく実装の違いに着目して、世界の携帯電話産業について、実装に関わるプラットフォーム/システム(完成品)企業間のネットワーク(ならびに複数の異なる企業間ネットワークが結びついて形成される産業のエコシステム)の分析を行った。 産業のエコシステムは、技術仕様の標準化から製品開発までの全てをコントロールする、支配的なプラットフォーム・リーダーを中心に形成されると考えられがちであった。だが、携帯電話産業では、技術仕様の標準化の担い手と実装の担い手は必ずしも一致せず、実装面で異なった役割(知識・技術の統合機能や企業間の媒介機能)を果たす複数のプラットフォーム/システム企業が分野別にネットワークを形成していた。こうした状況に対応して、各企業は社内外の技術やプラットフォームを用いて設計・評価・検証を行うという課題を抱えていた。 さらに、以上の世界の状況と、実装面の大部分をコントロールするプラットフォーム・リーダーが存在しコモディティ化が進んでいる中国とを比較した。これにより、複数のプラットフォーム/システム企業が相互補完的なネットワークを形作っているほうが、製品システムのイノベーションが起こりやすいという予測がえられた。
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