研究計画にもとづき、2011年3月にはサンクトペテルブルグの日本自動車メーカーを訪問し、ロシア進出における諸課題と経営戦略に関するヒアリング調査を実施した。当該企業のコーポレート・ガバンナンス改革の現状、管理組織に関する説明を受け、実際に工場ラインに入って従業員のスキルも観察することができた。 また2012年2月には、モスクワで障害者を雇用する企業および経営者、学校関係者へのヒアリング調査を実施し、旧国営企業時代に位置づけられていた障害者雇用問題が現代のロシア企業ではコスト削減の名め下に切り捨てられている現状を観察した。 企業の社会的責任に関する議論はロシアでも活発化しているが、環境保護活動への慈善事業、寄付といったフィランソロフィ活動は活発でも、社会的弱者救済には十分企業は役割を果たしていない。 旧ソ連時代に歪んだ形ではあれ、存在していた企業の社会的責任をもった行動は、現代ロシア企業のなかでは完全に変形したものになっており、むしろ自由主義の名のもとに、市場原理主義的な企業活動が目立つようになってきた。 ロシア企業をコーポレート・ガバナンス改革の視点から分析してきた本研究課題であるが、最終ゴールとして企業の社会的責任論をどのようにロシアで位置づけるのか、理論的かつ実証的に検証できた意義は大きいと考えている。
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