研究概要 |
本研究の目的は,知識経済への移行に伴い複雑化した人事制度を運用するプレイング・マネジャーの負担を軽減する「ポスト成果主義的人事制度」について,実証的に明らかにすることにある。平成23年度の研究実績の概要は,以下の2つに大別できる。 第1に,日本企業の人事担当者を対象に実施した入事管理の複雑化に関する質問票調査のデータ分析である。昨年度は暫定的な分析にとどまっていたが,今年度はより精緻な分析を行った。主な発見事実として,1)人事管理の複雑化が進むと自社の人事管理の社外評価が高まる一方で,人事担当者のストレスが高まること,2)人事担当者と現場との密なコミュニケーションが人事担当者の仕事満足ややりがいなど心理変数にプラスの影響を与えること,などが見出されている。人事制度をある程度簡素化することで,人事担当者は現場の人事制度の運用実態に関する情報を積極的に収集することが可能となり,最終的にはプレイング・マネジャーの負担軽減につながる可能性が示唆された,本分析結果については,下記「研究発表」に記載の『JMAマネジメントレビュー』に公刊済みで,本雑誌は多くの日本企業の人事担当者の目に触れるものである。 第2に,研究代表者と分担者がアクション・リサーチの形で携わっている病院組織における人事評価制度の改革プロジェクトで収集された映像データの分析である。シンプル化を図った人事評価の仕組みを運用して今年度で4年目となるが,結果的に評価面接の質がどのように改善したかを会話分析の手法を用いて解明することが目的である。看護師の評価面接をケースに分析を行ったところ,昨年度に見出された「閉鎖質問」には肯定的表現を用いた質問と否定的な質問を用いた質問の2種類が存在し,両者を組み合わせることで部下の成長的サポートを効果的に実践する場面が確認された。なお,昨年度から合わせて3本のケース集としてまとめることができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度初めに今年度の研究計画として,1)人事制度の複雑性とそれに伴うコストの変化に関する調査(質問票調査),2)人事制度の「最小有効バラエティの具体的内容の解明調査(事例調査)を挙げていた。1)に関してはデータ分析を中心に行ったが,調査の実施は行っていない。これは毎年アンケート調査を行うと回答者が面倒に感じることと,分析結果をもとに質問項目の加筆修正をすることが目的であって,決してネガティブな理由からではない。2)に関しては,アクション・リサーチを継続し,上記「研究実績の概要」に記載のとおり,評価面接の質的分析を実現している。以上の理由から,今年度の研究の目的はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として,プレイング・マネジャーの負担を軽減する「ポスト成果主義的人事制度」を解明するためのデータを引き続き量的・質的の両側面から収集することが挙げられる。具体的には,1)日本能率協会の会員企業の人事担当者を対象にした質問票調査およびインタビュー調査,2)神戸人事研究会のメンバーが所属する企業の管理職を対象にした質問票調査,3)アクション・リサーチを行っている病院組織の医療専門職を対象にした質問票調査および人:事評価の面接場面の映像撮影,以上のデータ源をもとに研究を進めていく予定である。なお,これらのデータ収集については既にそれぞれの組織から了承を得ており,研究を推進していくうえで現時点での問題点はない。
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