研究概要 |
本研究は日本企業の異動システム、すなわち縦方向の異動としての昇進・昇格と横方向の配置転換という意味においての異動が日本企業のイノベーション能力および持続的競争優構築にいかなる機能を有しているのか、ということを明らかにするものである。平成22年度は大きく3つのことを行うことができた。第1は昨年度本研究の成果として纏め発表した論文(「次世代経営幹部候補のキャリアと技量」『日本労働研究雑誌』第592号(2009))が『Japan Labor Review』に掲載されることとなり、英語論文に直し発表した(掲載号Volume7, Number4, Autumn2010)。内容は日本企業の中核人材となる次世代経営幹部候補がどのような人事異動歴(横方向の異動)を行い、そこでいかなる学習をしていたのかを明らかにしたものである。結論として補完関係のない部署への異動というこれまで経済合理性が疑問視されてきた日本企業の慣行において、経営層など中核人材に求められる会社理解などが促進していること、およびその学習メカニズムが過去の仕事との比較による推論学習がなされており、これまで想定されていたほどの学習コストがかからないものであることである。次に取り組んだのが日本企業と欧米企業の経営および人事(特に異動)に関する比較分析枠組みの構築である。日本型経営と欧米型経営の違いを明らかにしたうえで、日本企業の人事システムそして特に異動システムがどのように異なるのか、またそれがそれぞれの経営に対してどのような機能を有しているのかについてレビュー研究を行い、纏めたものである。これにより本研究を比較研究として調査を進めることが可能となった。またこのことに加え、学問的には従来企業を捉える上で比較制度経済学が主張するガバナンス・パースペクティブと経営学が主張するコンピテンス・パースペクティブの対立(例えばWillamson, O.E., 1999)が存在したが、これに対して一つの統合的な見解を試みることができるのではないかという示唆を得た。なおこの研究の成果の一部を「異動」(『経営行動科学ハンドブック』(2011発刊予定))に纏めた。第3の取り組みは先の比較分析フレームワークに則り、質問紙調査を作成し、調査を実施した。平成23年度にこのデータの分析を行う予定である。
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