本研究は、制度移行期におけるメタナショナル企業モデルを検討することを、最近のオープン・イノベーションの事例から検討することを目的とする。平成23年度の研究では、オープン・イノベーションを事例として、シンガポール政府が、「水」ビジネスのグローバルな研究開発拠点として設置したWaterHubとそれに参加した多国籍企業であるSiemensや日本企業について検討した。 これまでの研究では、オープン・イノベーションの新たなグローバルな制度設計として、知識探求収集型(open sensing)、知識融合型(global sensing)、知識呼び込み型(Open Campus)の三形態を抽出しているが。WaterHubは、分野のそれぞれ異なる多様な知識を融合させることで相互作用を起こし、ひとつの全体システムとして優位性を発揮させる知識融合型であり、オープン・イノベーションのグローバル展開の典型的な形態であった。 知識獲得の外部化の傾向は、研究開発費や研究開発費比率、研究者人員の増加といった伝統的な研究の規模を追求するマネジメントから、知識の多様性の中から探索、移転、活用するマネジメントへの転換を意味しており、メタナショナル・インベーション・プロセスないしメタナショナル企業モデルの理論的検討に重要な示唆を与えた。 日本企業に限らずグローバルに企業活動を展開した製造業は、各国市場の制度環境でのローカル・ニーズや国の産業政策に対する個別最適の課題と、一方で自社の資源や組織能力を構成する企業制度(business institution)を活用したグローバル・マネジメント・オペレーションの統合による全体最適の課題に対して同時に取り組んでいることが確認できた。
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