本研究では、近年の構築主義をベースとして発展しつつある起業家行動の関係論分析の枠組みを活用しながら、事例に密着取材しながら実証研究をおこなった。具体的には、大阪天満地区のクリエイター15人に対して3~5回にわたるインタビューを通じて、彼らがどのように環境を捉え、地域での戦略を変えていくかについて、定点観測をおこなった。2009年度の研究成果としては、雑誌論文を4本公刊し、学会発表を2件おこなった。稲垣は、インタビューで得られたデータに基づいて、調査資料としてクリエイターの関係性に関するデータを蓄積すると共に、記述をもとにした分析をおこなった。一方高橋は、クリエイターが置かれた環境をどのように認識し、制度をどのように変える主体たり得るかという観点から、論文をまとめた。 本研究を通じて、広告業界という組織フィールドに埋め込まれた起業家が、どの程度地域での関係構築に対して積極的であるかについて分析してきた。稲垣は、起業家の持つ事業空間の広がりを把握するためのヒアリング調査をすでに約30人の起業家に対して実施しているが、同じ調査を2時点、3時点の定点観測として実施することによって、明らかになったことは、インキュベーション機関などの正統性が、「地域」の概念を切り出素コトには成功するものの、その概念から生み出されたイメージは多様であり、地域での関係を資源化できるクリエイターの一は現時点では限られていることが明らかになった。
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