本研究では、近年の構築主義をベースとして発展しつつある起業家行動の関係論分析の枠組みを活用しながら、事例に密着取材しながら実証研究をおこなった。具体的には、大阪天満地区のクリエイター5人に対するインタビューを通じて、彼らがどのように環境を捉え、地域での戦略を変えていくかについて、定点観測をおこなった。2010年度の研究成果としては、雑誌論文を3本公刊し、学会発表を1件おこなった。インタビューで得られたデータに基づいて、調査資料としてクリエイターの関係性に関するデータを蓄積すると共に、記述をもとにした分析をおこなった論文が、『組織科学』の「経営組織の分厚い記述」特集号において採択され、掲載されることとなった。その他に、稲垣は記述のフレームワークを一部流用した論文を執筆し、一方高橋は、クリエイターが置かれた環境をどのように認識し、制度をどのように変える主体たり得るかという観点から、座間味村におけるダイビング産業の成立とサンゴ礁保全組織の形成に関する論文をまとめた。 本研究を通じて、同じ調査を2時点、3時点の定点観測として実施することによって、明らかになったことは、インキュベーション機関などが主導する産業クラスターの形成に対して、「地域」の概念から生み出されたイメージは多様であり、地域での関係を資源化できるアクターは限られていることである。
|