本研究の目的は、雇用・労働システムの外に置かれがちであった高年齢者および障害者の人々を、「働く場」に招き入れるための社会環境づくりについて、特に企業のマネジメントの観点から検討することにある。初年度は国内外の文献調査とともに、企業および授産施設、支援事業所、当事者および家族を含む関係者へのヒアリング調査を行った。分析の結果、次年度に行うサーベイ調査に通じる次の仮説を導いた。 諸外国では、「国際生活機能分類」や「障害者権利条約」の採択以降、社会や環境を変えることによって活動制限や参加制約を取り去り、障害の程度を軽減させる社会の実現が目指されている。だが持続的な雇用・就業を実現するための最適なマッチングのためには、逆理的ではあるが、まず障害の明確化が重要と考えられる。障害を識別した上で、やれることを明らかにし、能力形成・開発ができる分野を見定め、具体的支援を確定する。このことは、高齢・障害者が持っている能力、あるいは残されている能力を存分に発揮して働ける場所を見つけ出す、あるいはつくり出す、という考えにもつながっていく。 また高年齢者・障害者の雇用は、これまで一般的雇用と切り離して考えられがちであった。しかし雇用・就業を持続させるためのリテンション管理は、一般従業員に適用される普遍的な人的資源管理施策と共通している可能性がある。すなわち組織へのコミットメントや経営理念の共有、ビジョンや価値観への共鳴、人間が本来的に持つ承認欲求の充足といった要件と、それを可能とする施策が、高年齢者と障害者の場合にも有効となり得る。 次年度はこれらの仮説を検証するとともに、高年齢者・障害者の人権・生活・労働の問題と生活自立を支える制度や仕組みについて議論していく。最終的には、我が国の人的資源管理の強みを活かした、日本独自の高年齢者・障害者雇用促進施策を提示していくことになるであろう。
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