本年度は関連する2テーマについて研究した。第一は、親会社の国籍と国際人的資源管理の関連について理論・資料研究を進めた。メルボルンでの資料収集、理論研究の後、2010年1月にシンガポールでの追加調査を実施した。国際人的資源管理論の中で相対する立場であった、人事に関する戦略的世界統合と現地市場適応の概念の比較検討、近年明らかになってきた両者の融合状況などを理論的背景として、シンガポールにおける日系地域統括会社の人的資源管理支援業務に関する機能的発展とその阻害・促進要因について検討した。また、地域統括会社の機能変化、人材育成支援策の変動に関連して、ホスト社会シンガポールの産業政策における近年の変化およびその理由について整理し、ホスト社会への埋め込み(embeddedness)という概念を切り口に、日系企業への影響を検討した。本テーマについては、アジア研究学会(Asian Studies Association of Australia)大会での研究報告の形で成果を公表した。 第二は日系多国籍企業のローカル市場浸透とHRMの関連についての調査研究です。本テーマとの関連では、近年グローバリゼーションが進展する中で、ローカル環境への適応が改めて重視されていることを、日系企業に関する既存調査研究の整理によって指摘した。さらに、人的資源管理のテーマのうち、知識マネジメント、知識移転が重視され続けている現状から、ローカル環境への適応と知識移転、特にサービス・エンジニアリング担当者へのHRM施策に関する研究を立ち上げた。在外研究中には、メルボルン、シドニーでの日系企業の運営情況と現地サービス・エンジニア人材に関するHRM施策に関する聞き取りを予備的調査として実施した。本テーマに関し、メルボルン大学およびモナシュ大学で開催されたセミナーで報告した。
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