本年度の研究では、前年度に着目した制度派HRMの議論を進化させることを第一の目標とした。現場マネジャーの役割がHRM/HRDの制度開発に重要であるという経験的な理解を、マネジャーの埋め込まれる現地の制度的文脈とMNC全体の戦略的方針とのすり合わせという具体的な課題として表現しなおした。すなわち、多国籍企業を国境を超えるネットワーク組織ととらえ、その組織フィールド、制度ロジックという概念を導入して、本社-子会社間の同型化圧力のバランスをとるメカニズムやそこでのマネジャーの役割を明らかにした。各子会社の個別的な戦略ではなく、そのフィールド全体で共有されながら新しく作り出される適応戦略として制度ロジックを表現することで、マネジャーが何について役割を果たすかを整理した。この枠組みは今後継続する予定である、マネジャーに対する調査のキー概念となる。 一方で、オーストラリアの状況を俯瞰しながら、シンガポールとの相違を明らかにする試みも継続した。具体的には過年度に購入した、データベースからの情報と、ヒアリング調査で得た、企業のコミュニティに関するデータを組み合わせることによって、現地日系企業の社会化活動の実相を描き、比較的地域的な広がりのあるオーストラリアでは、都市ごとの対応が大幅に異なることを明らかにした。マネジャーが埋め込まれる現地の制度的文脈の地域間較差と、拠点の発展経緯、所有形態といった個別企業の特性との関連を検討し、埋め込まれる文脈の操作化を試みた。 今回のプロジェクトではさまざまな制度的背景が共通にある両国であっても、その国を含む組織フィールドの形成状況、範囲などが企業の適応戦略とそのための人的資源管理を大きくへだたらせる可能性を指摘した。
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