調査協力企業S社の若手社員35名(入社後1~4年経過)に対して、半構造的インタビューを実施した。得られたインタビューのデータに基づいて、その成長の度合いをいくつかのタイプに分けた。また、M-GTA(修正版グラウンディッド・セオリー・アプローチ)法によって、若手社員の成長に影響を与えていると考えられる人間関係について分析し、概念を生成した。以上より、周囲とのどのような人間関係が、若手社員の成長の度合いに影響を与えているのかを分析を行った。 その結果、若手社員の周囲との人間関係は4種類に分類することが出来た。このうち、特定の上司や先輩との垂直的で濃密な人間関係を持つ者よりも、周囲の人間と緩やかで多様な人間関係を構築している者の方に、相対的に高い成長を確認することができた。一方、若手社員の成長にともなって、その関係性が変化していくという事実はほとんど確認することはできなかった。 従来の研究では上司と部下の垂直的な二者関係や特定のメンターとの関係の重要性とその変化を議論するものが多かったが、多角的な人間関係の分析が必要であることが、今回の調査から確認することができた。直属上司と部下、先輩と後輩、メンターとプロテジェ、といった濃密な(多くの場合は垂直的な)二者関係を基軸としなくても、若手社員の高い成長を促進できる可能性が示唆された。企業としては、このような人間関係の構築を支援する方策を実施することが必要かもしれない。なお、今回は周囲との人間関係の変化を捉えることができなかったが、調査対象者の入社年次が浅かかったこともあり、全体的に成長の度合いが予想よりも低かったことが一因として考えられた。また、周囲との関係性は、その業務特性によって異なる一面も捉えられた。これらの点については、今後の研究課題として継続して調査を行う。
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