アタリが超帝国・超紛争(紛争の多発)・超民主主義(トランスヒューマンと調和重視型企業が問題を乗り越える)の未来を予言しているが、この認識から、欧米の経営学界では、平和(紛争)とビジネス、CSR、グローバルガバナンス等に関する新しい研究が進展している。このコンテクストの中で、平和国家日本の企業は大きな貢献ができる可能性があり、本研究は、経営学的視点からそのビジョンを描こうとしている。具体的には、フィリピンのアジア経営大学院と協働で「Peace through Commerce」を意識したアジアCSR事例研究をおこない、それをもとに、テキスト(ケースブック)を作成することを視野に入れている。 2009年度は、研究の第一年目であり、トピックの大きさと新しさにとまどいつつも、研究の足がかりを作ろうとした。文献研究を進め、また関係者に幅広く会い、主に理論の構築と、すでにある資料の整理を行った。ガバナンスの問題に関しては、翻訳作業を行った。一方で、リーマンショック後2009年度に入り、日本企業は一気にBOPビジネスに注目、また国連やJICAの新たな動きもでて、目まぐるしい変化の中、データベースなどのアプローチは再考する必要が出てきた。 平和の問題は、世界における経営学教育の新潮流とも関連が深く、世界的認証機関であるAACSBなどでも積極的に取り上げられている。平和なアジアを実現させるために、地域研究と経営学との学際的研究と教育の可能性があり、これらの点について学界報告を行った。今後、論文として発表していきたい。 意外な研究の進展として、平和とビジネスの問題は、実はスピリチュアリティ・潜在意識やジェンダーという、きわめて新しい経営研究の分野に深くかかわり、中核的な文献も出てきている。研究デザインの再考を含めて、今後の研究に反映させる必要があると思われる。
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