21年度の研究では、小売業を対象としたアンケート調査を実施し、多変量解析による統計分析を行い、以下のような結果を得た。(1)CRM能力の要素は、CRM基盤、組織サポート、顧客データ分析、顧客コミュニケーション、競合・取引先分析、顧客データ共有、およびCRM実施の7つからなる。(2)これらのCRM能力は、顧客関係の組織マネジメントと市場マネジメントの2つに類型化することができる。(3)CRM実施には、これら2つのマネジメント能力が重要な役割を果たしている。(4)CRMの財務的な成果は、ロイヤルティ・カスタマイゼーションと、それによってもたらされる顧客成果によって規定される。この研究成果は、「小売業における顧客関係管理の構造と成果」として高嶋克義・西村順二編『小売業革新』千倉書房、2010年、に収められた。 また、小売業のCRMにおいて密接に関連するSCM(Supply Chain Management)に注目し、生活協同組合コープさっぽろを事例研究の対象として、POS情報開示に伴うチャネル・パートナーシップ構築の様式と課題を検討し、チャネル研究における次のような新たな課題を提示した。(1)チャネル・パートナーシップという協調的関係における取引先企業の焦点企業への情報依存の様式、および情報依存性に基づく取引依存のメカニズムを理論的に明らかにすること、(2)ある焦点組織がPOS情報開示による先行者利益と持続的な競争優位を確保するための能力を戦略的に構築していくメカニズムを理論的に検討すること、(3)POS情報開示という情報の「開いた」チャネル関係を理論的にとらえ、そこでの取引および競争関係の様式を明示的に組み込んだチャネル研究を行うこと、である。この研究成果は、「POS情報開示によるチャネル・パートナーシップの構築」として『流通研究』第12巻第3号、2010年、に発表された。
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