本年度は、研究の最終年度として、ヨーロッパ家電小売市場の包括的な分析と特徴付けを行なうと同時に、メディア=サターン、ディクソンズの戦略の比較分析を行なった。 ヨーロッパ市場は、歴史的・文化的に多様な市場であり、東ヨーロッパ、バルト三国、中央ヨーロッパの一部など市場経済に参画してまだ日が浅い国々と、南ヨーロッパ諸国では、ユーロニクスなど「仕入グループ」の活動が顕著である。仕入グループの展開は、国内レベルでの有力小売業者の存在が前提となっており、自立性の強い小売企業の存在は、ヨーロッパ市場の特徴のひとつであるといえる。一方、企業チェーンを展開するメディア=サターンとディクソンズは対極的な状況のなかにある。ディクソンズは、国際金融危機以降、税引き後損失を計上した。北ヨーロッパを除き、イギリスを含む西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、南ヨーロッバなどで困難に直面し、またeコマース部門も参入の容易さから競争が激化しているため、現在、大規模なリストラに着手している。これに対して、メディア=サターンは、参入を果たした中央ヨーロッパ、西ヨーロッパ、南ヨーロッパの各国で確実に成長を遂げてきた。メディア=サターンの大きな特徴は、出店にかかわる意思決定は本部が行なうが、いったん開店すると、その後は、仕入、品揃え、価格設定、人事、財務など、経営・マーケティングの一切を店長に完全に委ねるという分権的システムを採用している点にある。各店長は店舗の10%の株式を保有し、利益の10%を配当として得るため、その労働意欲は高く、既存店を確実に黒字化することに成功している。 仕入グループとメディア=サターンは、仕入・管理面での規模の経済性の確保を前提としつつ、店舗運営を完全に分権化し、店舗管理者のアントレプレナーシップを尊重する点で共通しており、こうしたあり方が、著しく多様でローカル性が強く、自立性の高いヨーロッパ市場に適合していることを示している。
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