個人の消費において、ある製品の消費が、次の製品の消費を喚起する連鎖性を指摘できる。たとえば、夏目漱石「坊ちゃん」を読むことが(漱石作品への興味を喚起し)、「我輩は猫である」を読むことにつながり、それが漱石の前期三部作、さらに後期三部作を読むことにつながることなどである(このとき、猫→三四郎であって、その逆はないことに注意しよう)。さらに、消費の連鎖性は、階層性をもたらす。すなわち、連鎖に従い消費経験を積むことにより、消費する製品が変化することがある(たとえば、入門的な廉価のワイン群と嗜好性に富む高級ワイン群など)。そこで、本研究では、購買・消費における連鎖性・階層性に注日し、(1)ある製品(群)Aの消費が別の製品(群)Bの消費を喚起する現象、および、(2)製品Aから製品Bへと消費の連鎖を媒介・架橋する製品(群)Cについて考察することを試みる。具体的には、製品の消費を点(ノード)、製品・消費間の連鎖を線(リンク)と捉えたネットワーク分析により、消費者や製品の属性ではなく消費間の関係に注日することにより、消費者行動を説明しようとする。本年度においては、購買履歴データを用いて、アルコール飲料の購買における連鎖性と階層性を考察した。具体的には、構造同値と直接結合の概念に依拠して、5つの関係構造を提案し、各々の持つ消費者行動の意味を考察した。本研究の意義として、属性主義に依拠してきた既存研究に対し、関係主義・構造主義に依拠しながら消費者行動を説明することが挙げられる。
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