本研究の目的は、中国と台湾のビジネス・ネットワークにおいて、中小製造企業のイノベーション活動を理論的に把握することである。この目的に基づいて、平成21年度の研究内容は次の3つである。 1.既存理論の整理と問題点の確立。この部分では、既存のネットワーク理論を中小製造企業のビジネス・ネットワーク分析に応用する際、ネットワーク構築の効率性とそれによって生み出したアウトプットの因果関係を事例研究で検証した。結果としてわかったことは、ネットワークの効率性と狙う効果の間にトレードオフな関係が存在するということである。つまり、ネットワークの効率性は構成メンバー間の情報共有によるものであるため、高度な情報共有が行われる。しかし、この高度な情報の共有は情報の重複を意味するため、共有された情報に「冗長性」があり、それによって、ルーティンな運営は問題ないが、価値創造の面では劣ってしまうという結果である。この結果に基づいて、中小製造企業のイノベーション活動を行う際、従来のビジネス・ネットワークに抵抗勢力に対抗しながら変革を起こすことという仮説を立てられる。これに基づいて、22年度での質問表調査に利用できると考えられる。 2.中国と台湾の中小製造企業の現地視察を行ったこと。具体的に、2009年8月には台湾の台北、2010年3月には高雄と台北の中小製造企業を訪問した。そして、2009年9月と12月に中国江蘇・常州の中小製造企業にインタービューし、研究協力の依頼をした。しかし、残念ながら、2008年のリーマン・ショックにより、多くの中小製造企業が打撃を受け、協力を得られたのは4社のみである。この部分では22年度で継続的に検討することになる。 3.海外有識者との情報共有と研究集会の開催。2009年11月、アメリカのUniversity of Missouri-Kansas Cityのマーケティング学者Mark Parry氏招聘し、中小企業のネットワークに関する研究の最先端情報について意見交換を行った。そして、2009年12月に流通科学大学にて、中国復旦大学日本研究センター副理事長・経済学院教授の陳建安氏を招き講演を行った。中国政府の投資政策による中小企業への影響が主な内容である。
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