日本における非営利組織体をめぐる環境制約は近年大きく変化してきている。具体的には、例えば、社会が求めるニーズの多様化(社会の価値観の多様化)、組織の経営責任者の私的流用や不正等に対する社会的批判の高まり、営利組織体(一般企業)との営利競合の増加、同様の社会的サービスを提供する非営利組織体間での競合の増加、国や地方公共団体からの補助金の削減傾向などである。こうした環境制約の変化は、透明性ある会計情報の開示に対する社会的要求の高まりをもたらしている。情報開示による社会的モニタリングの達成、開示された情報に基づいて行う寄附者等の資金提供の意思決定などが、その情報開示の目的ないしは職能として期待されている。そしてそうした目的・職能を達成することを可能ならしめる情報には、その非営利組織体の事業が経済的かつ効率的に実施され、その成果に対する有効性が明らかなとある内容が含まれることが必要となる。このことが、非営利組織体会計に発生主義の思考を導入する背景となっている。発生主義の思考は、企業会計の領域で発展させられてきたものであるが、企業会計の考え方をそのまま非営利組織体会計に当てはめることはできない。貨幣資本の増殖を目指す(営利目的の)企業と、特定の社会的サービスの提供を目指す(特定のミッションを有する)非営利組織体では、その会計の目的も相違するからである。非営利組織体会計に特有の問題として、一般社団法人の「基金」や協同組合の「出資金」の性格付け(負債に該当するのか否か)があることも、企業会計の考え方をそのまま当てはめることができないことを示している。非営利組織体会計は貨幣資本の増減計算を目的とせず、多くの場合、一般目的(不特定多数の目的)である。そこで非営利組織体会計においては、企業会計で行われるような負債と資本(純資産)の区別を明確に行う必然性がないとの、暫定的結論が導かれる。
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