本研究の目的は、監査サービスの変容が会計情報と資本市場に及ぼす影響を実証的に明らかにすることである。この目的を達成するため、(1)関連する文献のレビュー、(2)データの収集、(3)実証分析の実施、(4)研究成果のまとめと報告、および(5)査読付雑誌等への投稿という手順で研究を進めることを計画していた。 本年度は、まず各担当者が文献レビューを行い、国内外の学会や研究会の参加を通じて最先端の研究にキャッチ・アップするよう努めた。また、本研究課題は監査サービスの変容の中でも、内部統制(報告書)監査と四半期レビューに焦点をおいているため、内部統制報告書や企業の四半期財務諸表に関するデータ・ベースを構築し、さらにそれらとの関連性を検証するために修正報告書のデータ・ベースも完成させた。 本年度は研究期間の1年目であるため(1)と(2)を中心に行ったが、第3のステップとして分析に着手したもののうち利益の保守性に及ぼした影響については、その成果をまとめて『国民経済雑誌』に掲載した。これは、監査サービスの変容が会計情報に及ぼす影響について、説得力のある証拠が観察されたため、この研究課題の緊急性を考えて公表に踏み切ったものである。本研究によって得られた実証結果を要約すると、(1)監査人による四半期レビューが導入された後、第1四半期と第3四半期の利益は全体としてより保守的になり、(2)そのような保守性の高まりは、保守主義に対する需要が高い企業ほど顕著であった、というものである。利益における保守主義は、企業における契約履行の効率性を高めたり、企業と投資家間の情報の非対称性を緩和するといった機能を持つことが知られている。四半期財務諸表の作成プロセスにおける監査人の関わり方の違いによって、利益における保守性の程度が変化するという本研究の検証結果は、監査人が財務報告プロセスにおいて重要な役割を果たしていることを示している。
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