本研究の目的は、監査サービスの変容が会計情報と資本市場に及ぼす影響を実証的に明らかにすることである。この目的を達成するため、(1)関連する文献のレビュー、(2)データの収集、(3)実証分析の実施、(4)研究成果のまとめと報告、および(5)査読付雑誌等への投稿という手順で研究を進めることを計画していた。 本年度は、次年度に行った文献レビューを引き続き行い、昨年度に収集したデータにもとづく分析とその成果の発表に重点を置いた。本年度は研究期間の2年目であるため(1)の更新と(3)を中心に行った。第3および第4のステップとして着手した分析内容は、内部統制の不備が経営者の公表する利益予測の精度に及ぼす影響を実証的に解明することであり、当該研究内容は、8月のアメリカ会計学会(AAA)および11月のアジア会計学会(AAAA)の年次大会で発表した。本研究によって得られた実証結果を要約すると、(1)内部統制に重要な欠陥があると報告した企業および決算短信の修正を行った企業は、その他の企業よりも経営者の公表する次期利益の予測精度が低い、(2)当該予測の精度は、楽観的なバイアスによるものである、というものである。内部統制に問題のある企業は、予測情報を開示するために企業内部で収集される情報の精度が低いと考えられるため、開示される予測情報の精度は他の企業よりも低くなることが予想される。特に、経営者による予測情報は未監査情報であるために監査人による指導等によって修正される余地がないため、そのような内部統制の問題が直接的に反映されることになる。本研究結果は、このような関係を支持するものであり、内部統制に問題のある企業の開示情報は精度が低いことを示している。
|