本研究の目的は、監査サービスの変容が会計情報と資本市場に及ぼす影響を実証的に明らかにすることである。この目的を達成するため、(1)関連する文献のレビュー、(2)データの収集、(3)実証分析の実施、(4)研究成果のまとめと報告、および(5)査読付雑誌等への投稿という手順で研究を進めることを計画していた。 本年度は、研究期間の4年目であるため、(3)、(4)、および(5)、すなわち、実証分析内容の精緻化と結果の報告、ならびに査読付き学術雑誌への投稿とその回答に対する対応に重点を置いた。本年度には、内部統制に何らかの不備があると考えられる決算短信の修正を行った企業が公表する経営者予測の精度に関する実証研究を査読付雑誌に投稿し、レフェリーからえたコメントにもとづき追加分析の内容を検討し、それに着手した。この作業と並行して、当該研究の研究報告、ならびにヨーロッパ企業における内部統制機能の実態に関する意見交換を目的として、Autonomous大学(スペイン)の研究セミナーにおいて発表を行った。 本研究によって得られた実証結果は、内部統制に何らかの問題がある企業は、その他の企業よりも経営者の公表する次期利益の予測精度が低いことを示している。同様の証拠はアメリカ企業に関する先行研究でも提示されているが、次の2点により、本研究の重要性が認められると思われる。すなわち、(1)将来業績予想の開示が実質的に強制開示であり、かつ予想情報の開示内容や時点に関する裁量性が低い日本企業を対象とすることにより、本研究は、先行研究で提示された仮説をより厳密に検証している。さらに、(2)本研究では、市場において一定数存在する決算短信の修正企業を分析対象にすることでより一般化した分析結果を提示している、という2点である。
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