研究概要 |
昨年度に引き続き,財務報告が提供する情報を,(1)財務諸表本文,(2)注記,(3)財務諸表外の情報に整理した上で,本年度ではリスク情報がどのように開示されているのかに焦点をあて,その質的特性について検討してみた。 リスク情報の開示は,(1)実際的な将来予測情報の提供,(2)資本コストの低減,(3)より良好なリスク・マネジメントの促進,(4)全ての投資者の同等な扱いの保証,(5)受託責任,投資者保護および財務報告の有用性の向上などを目的として行われていた。リスク情報は,即座に財務諸表の本文の数値に反映されるとは限らないため,非財務情報あるいは定量的情報を織り込んだ記述的(定性的)情報としても注記や財務諸表外で開示されていることが明らかになった。 財務報告におけるリスク情報の積極的な開示が行われている背景としては,現代社会における経営環境の不安定さに伴い,(1)企業経営におけるリスク・マネジメントの重要性が増してきたことと同時に,(2)その情報開示の有用性が社会的に認められるようになってきたことがあげられる。そのリスク情報を財務素表の数値に積極的に反映させようとしているのが国際財務報告基準(IFRS)の特徴であることを本研究では明らかにした。 IFRSでは,当該事象の生じる可能性がより確実でなくても,その認識に伴うリスク/不確実性が現在割引価値等の公正価値測定の中で調整できれば財務諸表に計上できるようになってきているため,財務諸表の範囲は拡大している。換言すると,これまで計上されなかったリスク/不確実性の高い事象も財務諸表で開示されるようになってきている。 偶発債務のように,例えば,認識と測定の要件を満たす財務諸表の本文での引当金計上はできないが,認識に伴うリスク/不確実性の許容範囲に収まるものは注記で記載される。しかし,その許容範囲を超えるものについては財務諸表外情報の「事業等のリスク」などに記載されることになる。 テキストマイニング等による各種分析方法については,実験的な段階で大がかりな分析には至らなかった。したがって,リスク情報の類型,およびその予測可能性については,最終年度に本格的な分析を行う。
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