研究概要 |
本研究では,まず,現代の財務報告では,個々の資産と負債の認識時と測定時において不確実性/リスクの評価を行い,財務諸表に計上する項目が決定されていることを明らかにした。そこでは,当該事象の生じる可能性がより確実でなくても,その不確実性/リスクが公正価値測定の中で調整できれば財務諸表に計上できるようになってきているので,財務諸表での開示情報が拡大化していることを指摘した。 有価証券報告書を用いて,例えば訴訟リスクを調査したところ,認識および測定の要件を満たす当該リスク情報は引当金に計上し,測定の要件は満たさないが認識の要件を満たすリスク情報は偶発債務として注記に記載されるていた。そして,それら両方の要件を満たさない訴訟リスクは,財務諸表外情報の「リスクに関する事項」などに記載されていることが判明した。 このように,現代の財務報告基準(IFRS)は,個々の資産と負債に伴うリスクを財務諸表の数値に積極的に反映させようとしているものと特徴づけることができた。しかし,当該リスクは,即座に財務諸表に反映されるとは限らないので,財務諸表の数値からは直接的に読み取ることが困難な企業リスクを説明的に記述して,財務諸表の追加的あるいは補完的な情報を開示している。リスクは,このように財務情報にも非財務情報にも反映されており,これら2つの情報を有機的に結合させるための要の概念であることを,本研究では次に明らかにした。英国では,営業財務概況(OFR)において,統合リスク情報が開示されていることを指摘できた。 統合リスク情報の開示媒体として統合報告書が考えられ,それは,現代のグローバル社会における経済・経営環境の不安定さに伴い,(1)企業経営におけるリスクマネジメントの重要性が増してきたことと同時に,(2)リスク情報開示の有用性が社会的に認知されるようになってきたためであり,それには(3)統合リスク情報の開示が必要であると結論づけることができた。
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