この申請課題は、産業界と密接に関係している研究である。アドプションであれ、コンバージェンス(相互承認)であれ、国際財務報告基準(IFRS)という規準の異なる規制を導入するとすれば日本企業には等しく痛みが生じる。申請課題では、IFRS導入のさいに日本企業に生じる痛み(すなわち、コスト)について分析し、同時に、日本企業が受けるベネフィットを、上場企業の財務担当取締役(CFO)の目を通して発見することを目的としている。 第一年度は、IFRS対応の方向性が固まり、「連結先行」が公表された直後に実施したアンケート調査を単純集計し、調査を通して、上場企業のCFOが抱いているIFRS導入の課題を明らかにした。結論として、以下のことが指摘できた。 第一に、IFRS導入がもたらす全般的な課題として、「経理担当者のトレーニング」が浮上している。IFRS教育が現場で行き届いていない実態が鮮明になり、CFOもこのことを強く認識している。第二に、これまでIFRS導入は財務報告、認識・測定問題として議論されるのが常態であったが、ITシステムのIFRS対応作業は、管理会計とも関連があることが確認できた。会計規制の要求を受けずに、企業が柔軟な会計実務をしてきた領域にも影響が及びそうだといえる。第三に、IFRSの不確実性(解釈、将来変更される可能性など)が作成者の困難領域を増幅している可能性がある。反対に、ベネフィットとして外国企業との財務諸表の比較可能性の向上が指摘された。日本企業との比較可能性は、ライバル企業がIFRSを導入している場合、向上が期待できるという見解があった。
|