本研究では、利益の質評価尺度に関する理論的検討をふまえ、SEC基準適用日本企業データを用いて各利益の質評価尺度における内部統制報告制度による影響を分析した。本研究の結果、内部統制報告制度適用以降、実体的裁量行動が微増したこと、内部統制報告制度適用以降における裁量行動の変化、すなわち、機会主義的な会計的裁量行動が抑制され、内部情報伝達目的の会計的裁量行動だけが維持されたことを予測誤差との関連性および会計発生高の質との関連性に基づいて明らかにすることができた。特に、実体的裁量行動が機会主義的な裁量行動であることを予測誤差との関連性および会計発生高の質との関連性から示した点は、本研究における新知見といえる。また、実体的裁量行動の増加が、キャッシュ・フロー予測精度および会計発生高の質にたいして負の影響を与えたという証拠を提示した点もこれまで検証されていないものである。さらに、機会主義的裁量行動の可能性がOCFボラティリティと会計発生高の質との関連性から把握できることを示した点も貢献といえる。SEC基準適用日本企業データを用いて行った本分析は、米国に上場する外国企業としての日本の行動を示す研究、同時に日本における内部統制報告研究に関するパイロットスタディの1つと考えられる。各利益の質評価尺度についての実証分析は、それぞれ第3回現代ディスクロージャー研究カンファレンス、日本経営分析研究学会第26回年次大会、2009年米国会計研究学会年次大会、日本会計研究学会第68回年次大会、2010年米国会計研究学会南東部部会で報告を行った。また、共同研究「内部統制およびコーポレート・ガバナンスと監査」(代表者:須田一幸早稲田大学大学院教授)は今年も継続して実施された。サーベイ調査研究の日米比較は2009年米国会計研究学会年次大会で報告し、サーベイ調査結果に基づいたアーカバイル研究は日本会計研究学会第68回年次大会で報告を行った。
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