本研究は、コーポレートガバナンスと経営者と株主の情報の非対称性が浮きぼりになる上場子会社の買収に関して、利益調整を財務諸表上のデータから分析を行い、その特質を明らかにしようとするものであったが、同様なアプローチによる研究発表に接し、さらなる研究の拡張に重点を移して研究を行った。 経営者による業績予想が非上場化の前年に楽観的になっているかどうかを、コントロールサンプルのそれと比較することによって行った。即ち、経営者が翌期の利益予想をする場合に上方にバイアスのある予想を行って、決算発表を行う際に実績値が判明し、ネガティブサプライズによって株価を押し下げようとしていないかを検証することとした。分析を行うも、業績予想が楽観的になっている結果は得られなかった。 いかなる場合に子会社の非上場化が行われるかという問題も非常に興味深いテーマであり、第二のテーマとして分析を実施した。米国などと異なり、日本の場合は子会社を上場することが可能である。上場子会社の場合には、多くの株式が親会社によって所有されており、情報の非対称性と利害の対立が存在しうる。親会社は子会社の企業価値が高い時に上場し、その価値(=株価)が下がった時に非上場化するのであろうか。 本研究においては、非上場化の要因分析を、PBR,企業規模、財務レバレッジ、「子会社」の営業キャッシュフロー、設備投資、ベータ、ROA、売上伸び率などをロジスティック回帰分析を用いて分析した。財務レバレッジが高く、総資産に対する設備投資額が少なく、ROAが低いほど非上場化の可能性が高まることが判明した。PBRはロジスティック回帰分析において統計的に有意ではなかった。子会社の企業価値の変動に伴う上場化・非上場化の仮説は検証されていない。
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