価値関連性の実証研究では、株式時価総額を利益と自己資本で説明しようとする研究がほとんどであるのに対し、企業価値評価の分析的研究では、基本的に株式時価総額を残余利益と自己資本で説明する研究しか存在していない。そこで、株式時価総額を利益と自己資本で説明する理論モデルを構築した。 次に、アメリカの1995年私的証券訴訟改革法によって、監査人の責任が連帯責任制から比例責任制になった場合の分析的研究はすでにいくつか存在しているので、監査人について連帯責任制と有限責任制といった法制度のちがいが、監査リスクやその構成要素、監査報酬等にどのような影響が生じるのかを分析した。ベースとなるモデルは、第1種の過誤の可能性のない不正探索ゲームである。起業家は、企業の収益性が高いか低いかを観察してから、財務諸表を準備する。この財務諸表は、監査人によって監査される。監査人が適正意見を出した場合にかぎって、株主は起業家より企業の株式を譲り受け、一定の確率で、経営者と監査人に対して訴訟を起こす。以上のサブゲームを前提として、ゲームのはじめに起業家は、監査人に監査報酬を提示する。 このゲームにおいて、監査人の責任が無限(連帯)責任制のケースと有限責任制のケースとを比較ゲーム分析の手法を用いて、詳しく検討を行なった。 監査人に対する有限責任制を導入するケースでは、無限責任制のケースと比較して、固有リスクは増加するものの、発見リスクが減少することがすでにわかっている。しかし、固有リスクの増加は、つねに発見リスクの減少を上まわり、総体としての監査リスクはつねに増加する。また、発見リスクが減少するということは、監査努力が増大し監査の質が高くなるため、より多くの監査コストがかかる。したがって、監査報酬が増加することがわかった。
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