戦略的監査論の設定において、監査人についての有限責任制を導入した場合、監査リスクやその構成要素、監査報酬等にどのような影響が生じるのかを分析するのがこの研究課題の目的である。ベースとなるモデルは、第1種の過誤の可能性のない不正探索ゲームである。起業家は、企業の収益性が高いか低いかを観察してから、財務諸表を準備する。この財務諸表は、監査人によって監査される。監査人が適正意見を出した場合にかぎって、株主は起業家より企業の株式を譲り受け、一定の確率で、経営者と監査人に対して訴訟を起こす。以上のサブゲームを前提として、ゲームのはじめに起業家は、監査人に監査報酬を提示する。 監査人について有限責任制を導入するケースでは、固有リスクは増加するものの、発見リスクが減少する。しかし、固有リスクの増加は、つねに発見リスクの減少を上まわり、総体としての監査リスクはつねに増加することになる。また、発見リスクが減少するということは、監査努力が増大し監査の質が高くなるため、より多くの監査コストがかかる。したがって、監査報酬が増加することになる。 しかし、この設定では、監査の導入がつねに社会厚生を減少させることがわかった。そこで、投資プロジェクトにタイプを導入し分析を行なった。また、株式を購入した株主がつねに一定の確率で訴訟を起こすという設定に対して批判的なコメントが多いので、非本質的な拡張ではあるが、読者の理解を促進するため、粉飾についての兆候を示す設定をモデルに組み込んだ。
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