本研究課題は、企業会計の問題のうち、コーポレート・ガバナンスとディスクロージャーの関わる問題について、主として、情報経済学(不確実性と情報の経済学)の視点からモデル分析することを目的としていた。とりわけ、日本固有の制度的要因が重要な役割を果たすモデルを構築し、その分析に取り組むことを目標とした。 この目標は、研究期間内にある程度達成されたと考える。当初想定していた研究課題については一定の結論を得た。 監査人についての有限責任制を導入した場合、監査リスクやその構成要素、監査報酬等にどのような影響が生じるのかを、第1種の過誤の可能性のない不正探索ゲームを題材に分析してきたが、本年度は、このモデルを不完備情報の設定へと拡張し、株主が訴訟意思決定をする前に、私的情報を観察するように設定を変更し、分析を続けた。 このゲームにおいては、有限責任制の導入によって、固有リスクが高くなり、監査の質は高くなる(発見リスクが減少する)ものの、全体としての監査リスクが高くなるという結果が得られた。これは、完備情報のケースと同じである。他方、有限責任制の導入によって監査報酬がかえって高くなるのは、監査兆候シグナルがあまり情報提供的でないとき、監査報酬は増加することがわかった。 このほか、財務会計上の利益と税務会計上の所得との関係について、価値関連性の観点からモデル分析を行ない、確定決算主義にもとづく会計利益のほうがそうでない利益よりも価値関連性が高くなるための条件を特定した。具体的には、利益操作前の利益に含まれる不確実性が十分に大きい場合か、または、経営者の報酬スキームについて情報の非対称性があまり大きくない場合、確定決算主義にもとづく会計利益のほうが価値関連性が高いことがわかった。
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