研究概要 |
会計監査人と経営者の癒着を防ぎ,会計監査人の独立性を高める手段として,監査法人の定期的な強制交代制度が欧米で注目され,イタリアのように部分的に実施されている国もある。本研究では,この制度の独立性に対する効果を,ゲーム理論による簡単なモデルを基礎に,実験により検証した。実験では次の4つの市場で,学生に経営者と監査人を演じてもらい,パーフォーマンスに比例して報酬を支払う形で実施した。4つの市場とは,経営者がいつでも自由に監査人を交代できる自由市場(1),経営者が3期間だけ監査人を交代できず,それ以後は自由に交代可能な留保市場(2),経営者が最大3期間までしか同じ監査人と契約できない交代市場(3),および経営者が3期間ごとに必ず監査人を交代しなければならない留保交代市場(4)である。各市場では,4大監査法人による寡占の状況も踏まえて,経営者1名に対して監査人4名が待機する形にし,覆面化に十分配慮した。 監査人は,監査証拠収集の努力をするか否かのみが選択できる。努力を選択しないと,経営者の資産の品質に関する決定的な証拠をより得られにくくなる。決定的な証拠が得られない場合は,監査人が経営者に有利な報告をするという設定にした。監査人が資産の品質を正しく評価した監査報告をしたいのなら,努力を選択することが望ましい。なお監査人は,誤った監査報告をすると必ず罰金を科される。経営者は,監査人が自分に有利な監査報告をしないと,一銭の儲けにもならないので,自分に有利な報告をしなかった監査人を解雇して新しい監査人を雇うことができる。監査人は解雇されると報酬がゼロになるので,意図的に監査証拠収集の努力を回避して,独立性に反する選択をする可能性が出てくる。今回の実験では,(4)の市場で監査人の独立性に反する選択が有意に減少し,強制交代制度の独立性に対するプラスの効果が確認できた。
|