研究概要 |
会計監査人と経営者の癒着を防ぎ,会計監査人の独立性を高める手段として,監査法人の定期的な強制交代制度が欧米で注目され,ヨーロッパ連合は2010年の10月にこの制度の採用を提言した。本研究では,この制度の効果を,ゲーム理論による簡単なモデル化と,学生を被験者とする実験により検証した。監査人が資産の品質を正しく評価し,公正不偏な監査報告をしたいのなら,監査証拠の収集の努力を選択することが望ましい。ところが監査人が経営者に有利な監査報告をしないと,監査人を解雇して新しい監査人を雇う可能性がある。監査人は解雇されると報酬がゼロになるので,意図的に監査証拠収集の努力を回避して,経営者に有利な監査報告をして解雇を避ける誘惑に駆り立てられる。本研究の目的は,監査人の定期的な強制交代がこの誘惑を断ち切る効果があったかを検証することである。実験では,経営者がいつでも自由に監査人を交代できる市場以外に,経営者が3期間だけ監査人を交代できず,それ以後は自由に交代可能な市場,経営者が最大3期間までしか同じ監査人と契約できない市場,および経営者が3期間ごとに必ず監査人を交代しなければならない市場を設定した。各市場では,日本や世界における4大監査法人による寡占の状況も踏まえて,経営者1名に対して監査人4名を待機させた。実験の結果は,予想に反して,監査人の交代に規制をかけたいずれの市場とも目立った効果を確認することができなかった。強制交代制度の導入には慎重な検討が必要であるかもしれない。
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