企業結合により生じるのれんは、一般に超過収益力を表すものとして資産計上されるが、証券市場においては株価との関連性(relevance)が高いと認識されているのかを検証する必要がある。また、のれんを他の資産や利益情報と比べた場合、のれんの株価との関連性はどの程度高いのかについても検証する必要がある。これまで、のれんの会計処理については多様であったが、国際的には資産計上するが規則的償却は行わず、減損処理を行うという会計処理に収斂しつつある。 わが国では、のれんは資産計上され規則的な償却が行われ、その価値が損なわれたときに減損処理が行われる。のれんの規則的償却を行う処理と行わない処理では、当期純利益の金額が異なってくる。多くの情報利用者は、1株当たり当期純利益の分析にあたって、のれん償却費を控除しているといわれるが、のれん償却費控除前利益とのれん償却費控除後利益を比べた場合、どちらの方が株価との関連性が高いのであろうか。これら2つの疑問に応えるため、今年度は連結財務諸表において計上されるのれんおよびのれん償却費の価値関連性(value relevance)について実証的に検証した。 のれんの価値関連性に関する実証結果からは、のれんは資産として評価されており、企業価値のプラス要因であることが明らかになった。とりわけ、製造業よりも非製造業において、のれんの価値関連性が高いことがわかった。一方、のれん償却費の価値関連性に関する実証結果からは、のれん償却費控除前の当期純利益の方がのれん償却費控除後の当期純利益よりも価値関連性が高いことが明らかになった。この実証結果から、わが国においては、のれん償却費は、企業価値を評価する際に有用な情報を提供していることを示していることがわかった。
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