本年度における研究の目的は、連結財務諸表に計上される少数株主持分の価値関連性を実証的に検証することであった。少数株主持分は、連結貸借対照表の貸方科目であり、負債、株主持分(資本)、または負債と株主持分(資本)の中間に表示することが考えられる。国際会計基準では、経済的単一体説に基づいて、少数株主持分は株主持分(資本)に表示されるが、わが国では、親会社説に基づいて、少数株主持分は株主資本とは区別して表示される。 一方、連結損益計算書上において少数株主に係る利益(少数株主利益)は、純利益を算定する前に控除するか、または純利益の内訳科目として表示することが考えられる。国際会計基準では、経済的単一体説に基づいて、少数株主利益は利益の内訳科目として表示されるが、わが国では、親会社説に基づいて、少数株主利益は利益の控除科目として表示される(ただし、包括利益については、その内訳として親会社株主に係る包括利益と少数株主に係る包括利益が表示される)。 1990年~2010年の21年間において、親会社説に基づくモデルの説明力は経済的単一体説に基づくモデルの説明力よりも高くなっていることがわかった。このことは、証券市場において、少数株主持分は資本の構成要素(少数株主利益は利益の内訳科目)としてよりもむしろ資本以外の構成要素(少数株主利益は利益の控除科目)として認識されていることを示している。この実証結果は、わが国の連結会計基準における考え方と整合しているといえよう。
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