本年度は、研究計画のうち、(1)意味システム論の理論研究に関しては、21年度からの継続中の作業をさらに進めるとともに、研究全体の成果を単著『社会学の方法』にまとめ、公刊した。 本書では、エミール・デュルケーム以来の近代社会学の百年以上にわたる歴史を主要な文献とともにふり返りながら、社会学における制度分析の方法論を反省的に再構築した。その際に基軸にしたのは『常識をうまく手放す』と『社会が社会をつくる』という二つの考え方であるが、どちらも自己産出autopoiesisの発想にもとづいている。まず『社会が社会をつくる』に関しては、従来の社会学で標準的な考え方であった生物学的および物理学的なシステム論にもとづくモデルが論理的に破綻することを確認した上で、解釈を媒介とした自己の概念の事後的変容という形で、ニクラス・ルーマンが導入した自己産出の考え方が使えることを示した。さらに、デュルケーム、ジンメル、ウェーバー、マートンといった代表的な社会学者の制度論がその部分的展開になっていることを明らかにし、社会学の方法の流れを体系化した。これは自己組織の発想の新たな読み換えであるとともに、自己一般の再解釈を要請する点で、『常識を手放す』ことの代表的な応用例になっている。 ここ二十年で日本語圏の社会学は大きな発展を見せているが、そのなかで、学的思考の流れを全体的に提示する著作はなくなり、重大な空白となっていた。本書は意味システム論の自己産出の考え方を再構築することによって、その空白をうめるものである。 研究計画の(2)具体的な比較対象都市の実地調査と分析に関しても、東京および京都でのフィールドワークをつづけ、都市の自己産出性について分析を進めた。その成果は上記『社会学の方法』に盛り込むとともに、独立の研究論文の形でまとめている。
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