本年度は4年間にわたる研究期間の2年度目なので、5つの研究課題のうちの、次の課題を実施した。 I 新たな絆(=社会的連帯)の理論的可能性 社会学誕生以来のテーマである「個人と社会」の問題を解決するキーワードは、社会的連帯である。社会的連帯の問題は、近年、社会関係資本(social capital)という概念の登場によって脚光をあびている。そこで、社会関係資本の内実をなす、信頼概念とケア概念の理論的検討を行った。その結果、信頼概念・ケア概念を社会秩序の安定性の問題にとっての中核的な概念にするには、信頼概念・ケア概念を役割概念あるいは役割期待概念とどのように接合するかが、重要な問題であることが明らかになった。 II 「個人化」を支える思想的背景としての新自由主義思想の研究 新自由主義(ネオリベラリズム)思想の1つの理論的支柱とされるハイエク理論を検討した。その結果、ハイエクのいう自生的秩序が、社会学の世界においてパーソンズがテーマとした社会秩序の問題とどのように関係づけられるのかが、重要なテーマであること明らかになった。次年度以降、このテーマについて、考察することにした。 新自由主義思想が個人主義に支えられているのに対して、共同体もしくは集団主義に支えられた理論として、ベラーたちの『心の習慣』の検討を行った。ベラーたちがコミュニタリアニズムを提唱する意図は、明らかになったが、共同体の具体的なイメージが明瞭でないという問題点も明らかになった。「社会」イメージを喚起する想像力の源泉について、さらに考察を進めることにした。
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