今年度は、現代の社会理論における秩序構想の諸様態をめぐる研究を深めることを目標とした。ほぼ、2か月に1回コロッキアムを開催し、研究発表ならびに討議を繰り返した。それを通じてまず第一に、Z.バウマンにおける「よそ者」論ならびに社会的排除論、リキッドモダニティ論における社会統合の解体論を検討した。第二に、D.ライアンなどの社会学理論の検討を通して、現代における監視社会論の理論構図とそこにおける社会コントロール様式についての見解を考察した。第三に、N.ルーマンの社会システム論における包摂と排除をめぐる秩序構想を議論した。この第三の問題にかかわっては、現代ドイツにおける「統合問題」をめぐる議論状況を俯瞰することにとくに力を注いだ。 上記の研究計画の遂行とともに、そのために必要な文献収集を夏にドイツにおいて行った。とくに、19世紀末のヨーロッパの社会理論における社会統合論、ならびに社会コントロール論にかかわる文献と、現代のヨーロッパ諸国が抱えている秩序問題を論じている、日本の図書館を通しては入手しにくい資料を収集した。これらの文献の検討に秋以降入っている。とくに19世紀末ドイツにおける社会問題をめぐる様々なパラダイムのタイポロジーの分析に成果が上がった。当時における社会問題と、社会理論における統合問題との関係は、いまだ思想史的に十分には解明されていない難問である。 19世紀末から20世紀初頭にかけての社会概念や、そこにおける統合問題の様態についての上記の研究成果は、コロッキアムにおいてそのつど検討されるとともに、その一部は学会において公表された。当時の社会秩序の統合デザインについての分析が進むことによって、現代の同じテーマをめぐる議論との比較が初めて可能となるが、その基礎を固めるという今年度の研究実施計画は、十分に成果があった。
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