研究計画の最終年度なので、代表者は研究成果の執筆とまとめに専念した。その課題は二つからなっていた。一つは、社会学における<古典>という概念の意味を現代におけるモダンやポスト・モダンをめぐる議論との連関を念頭におきながら検討することである。そのことによって、現代において<古典>を援用しながら理論を語ることの意義と限界を検討した。二つは、<古典>と近・現代の社会像とのもっとも代表的な媒介項の一つとなりうるG.ジンメルの思想を取り上げて、その社会理論的可能性と社会統合論的インプリケイションを解析することである。前者の可能性問題については、科研報告書ではなく別の論文においてこの3年間長編の論稿を作成しつつある。とくに、現代社会学においてもっとも重要な<古典>となりつつある「社会はいかにして可能か」(1908)という論稿の思想的意味を考察したもので、現在すでにその半分を発表しているが、さらに今後後半部を継承して発表していく予定である。後者の統合問題については、科研報告書において、「ジンメルにおける『規範化様式』論」として執筆した。規範の問題は現代の社会理論においてもっとも重要な問題の一つであり、<古典>と現代をつなぐ格好の媒介項となるものである。連携研究者たちは、5月に行われた第62回関西社会学会においてストレンジャー、リスク、労働、医療というテーマに分けて、本科研テーマにもとづく視点から研究成果を発表した。この発表を最終的に研究成果として活字にするために、その後打ち合わせを重ねた。電子媒体のみならず、紙媒体での研究成果報告書を作成することを期し、3月にそれを報告書として完成させた。重要ではあるが非常にむつかしいテーマであり、またメンバーの数と専門分野に限定があったので、3年で完成というわけにはいかなかったが、その基礎については一応できあがったと判断している。
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