本年度は、2本の論文を公刊することができた。『理論と方法』(数理社会学会誌)に掲載された「戦後日本における階層帰属意識のダイナミクス」では、階層帰属意識が職業構造変動によってどのように説明されるのか、数理的および計量的に分析をおこなった。階層帰属意識は、日本の社会階層研究において、とりわけ理論的に探求されることの多かった主題であり、その代表的な事例としてファラロ=高坂モデルをあげることができる。しかし、ファラロ=高坂モデルはある一時点での階層帰属意識分布を問題にしており、構造変動にともなって、それがどのように変化するのかといったことは議論されていなかった。当該論文では、この欠を補うべく、階層帰属意識分布の変化の背後にあるメカニズムを理論的に明らかにすることを試みた。その結果、"親の職業的地位を継承している個人は、自身の職業的地位が指示する階層的地位により強くコミットしている"ことを仮定することで、いっけんすると対応関係を欠いていたかのように観察された"職業構造の変動と階層帰属意識の変化"の関係を合理的に説明できることが明らかにされた。そして同時に、そのようなメカニズムの存在を、SSM調査データによって実証的に確認できることも明らかにした。また、『思想』(岩波書店)に掲載された「現実から乖離する社会意識」では、先の論文で明らかにされた数理モデルが社会理論に対してどのような意味をもつのか、このことについて理論的な検討をおこなった。マルクス理論や機能主義に代表される従来の社会理論は、社会意識と社会構造を適切に理論化することに失敗してきた。しかし当該論文では、階層帰属意識を例証にして、個人の辿る経路を適切にモデル化することによって社会意識と社会構造の関係をより適切に理論化しうることを論じた。
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