1. 研究目的・課題:本研究全体の課題、(1)身体に関する日常知へのアプローチ、(2)身体への諸個人の向き合い方、身体に対する意識、身体管理に関する実際的な活動へのアプローチのうち、(1)を中心に研究を行った。その趣旨は、現代人の身体観・意識と活動に作用し、またそれを反映する日常知として、現代生活に広く流通する身体・健康関連情報が、身体に関していかなる「知」を現代人に提供しているのか、またそこから現代人の身体に関するいかなる「常識」や「考え」を読み解くことができるかを質的分析によって浮かび上がらせることである。 2. 研究方法:(1)文献研究、1)国内外の関連研究の検討、2)身体に関する現代の日常知の構成を検討するため、身体に関する諸研究の検討、を行い、(2)身体に関する日常知の分析として、日常生活における身体管理に関する実用的情報の検討、具体的には、健康関連書籍(実用書)および月刊誌を対象として、その内容の検討・質的分析を行った。 3. 研究成果:以下が明らかになった。(1)身体をめぐる諸問題は、医療、健康、美容、再生産問題等、社会学において様々な角度から扱われているが、身体に関する日常知および当事者の主観的意味に即した身体研究は新しい課題であること。(2)現代社会に流通する身体に関する日常知は、パラダイムの異なる多様な知の混交・並存状況にあること。(3)それらの知は、異なる身体観を背景として、しばしば相互に矛盾あるいは対立する知識として現代社会に流通しており、人びとはそれらを断片的に受容し消費していると考えられること。現代人は自身の身体について体系だった理解の枠組みを持ちづらくなっていると思われること。次年度はこれらの成果を踏まえ、日常知が、現代人が自身の身体を理解する上でいかなる形で機能しているか、人びとへの質的調査によってさらに追求していく。
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