<本研究の目的と課題>本研究は、現代日本における人びとの身体観、身体に関する意識と身体への向き会い方を探究し、その社会的意味を人びとの主観的意味に即して捉えていく。そこから、現代社会における身体の置かれた状況を人びとのリアリティの側から批判的に検討していくことを目指すものである。その方法として、1)現代生活に広く流通する身体・健康関連情報を対象とし、身体に関していかなる「知識」が流通し、そこから現代人の身体に関するいかなる「常識や「考え」を取り出すことができるかを、主として言説の質的分析によって浮かび上がらせる、2)自己の身体管理にかかわり何らかの実践を行っている人びとを対象にインタビュー調査を実施し、当事者の身体への意味づけ、身体のとらえ方を探っていく、以上の2つを課題とした。 <研究を通して得られた主な知見とその意義>私たちは自分自身を含め周囲のものを意味づけ、その意味に基づいて行為している。身体についても同様である。ここでは、身体と身体管理に関する日常的な知識と語りへの接近を通して、身体への2つの対照的なアプローチを析出した。1)身体を、何らかの刺激を加えることによって望ましい状態に向けていくような客体として捉えるようなアプローチ(「客体としての身体」観)、2)身体をそれ自体として私たちに何かを語りかけてくる主体として捉えるようなアプローチ(「主体としての身体」観)である。前者では身体は、働きかけの対象として、その持ち主である主体に対して従属的であり、後者では、身体がその待ち主に対して働きかけてくる、その意味で身体の方が主、それに応える側である自己の方が従属的である。本研究では、後者の身体観に、現代社会における身体の扱い方、ライフスタイルを含め、現代社会のあり方を問いなおしていくひとつの契機があると考える。
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