研究概要 |
本研究は,科学技術の高度化と文化変動との複雑な相関過程のなかでも,とくに身体概念や自己定義をめぐる文化価値レヴェルの変動過程と科学技術の応用化プロセスとの相互影響関係に分析照準をむけ,そこに観察される力動関係を社会過程論・シンボリック相互作用論の理論フレームによって社会学的に解明することを目的としている.したがって,研究初年度にあたる平成21年度では,研究計画第1段階の作業として「近代産業化モデルと科学技術,文化変動に関する学説史的分析」を実施し,文献資料の収集とそれら先行研究の総覧によって関連する理論モデルの検証と評価を行った.そこでは,(1)科学技術の高度発達を特徴とする近代化過程において前近代的な「人間-機械」対立図式の変容がヒト概念の存在論的・認識論的あり方に関わる問題(人間概念の定義問題)を先鋭化してきたこと,(2)その今日的局面においては実体概念である物理的・生物学的身体と構成概念である意味論的身体との関係性が問題化されること,(3)高度科学技術の社会的浸透過程において「ヒトの機械化(robotization)」と「機械(ロボット)の人間化(humanization)」に係る諸現象がヒト・身体の概念的カテゴリーそれ自体を変容(本質主義的概念から社会構成主義的概念へ)させていること,(4)そのような社会的カテゴリー化の変容過程は集合現象を媒介として文化的に表象されながら現代社会のポストモダン的状況を顕在化し,現代人の社会的価値やアイデンティティの可変性とライフスタイルの多元性を高めていること(液状化するモダン),(5)仮想/現実カテゴリーの溶解とハイブリッド世界の構成がヒト概念の再定義を要請し,その再定義過程は歴史的背景や社会文化的コンテクストに依存していること,したがって(6)その歴史社会・文化的差異を国際比較研究において明らかにする必要があること,が判明した.
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