本年度は、戦後の高度経済成長期におけるダム開発が山村、林業、流域社会にそれぞれどのような変容をもたらしてきたのかを、熊野川流域のダムを対象事例とし、新聞・雑誌記事や市町村史・県史などの収集・整理・分析に努めた。また、ナショナリゼーションの視点からダムがもたらした社会変容について、昨年度に調査を行った庄川との比較分析をも試みた。 また、ナショナリゼーション論研究については、下記の三点を焦点として、上記の調査活動と並行しておこなった。 (a) ナショナリゼーションとグローバリゼーションとの比較研究 (b) ナショナリゼーションと近代化との関係についての研究 (c) ナショナリゼーション概念の検討 特に本年度においては、ナショナリゼーションと近代化との関係について、理解を深めることができた。それは、近代へと到る歴史を「存在に対する行為の優越・中心化」として捉えるという考え方と通約メディアという新しい概念の導入にもとづいている。そして、ナショナリゼーションという現象は、国民国家という通約メディアの働きと関連づけて捉え直されることになる。 また、大規模河川の河口に江戸時代に発達した都市(庄川・高岡、気仙川・気仙町)における「曳山祭」の調査を通して、ナショナリゼーションが進展する以前の社会についての理解を深めることができた。その成果の一端を、共同研究者である吉田竜司との共著論文「祭りのオーソプラクシー化と社会変動」として発表した。
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