本年度は3年計画の最終年度にあたる。主要な調査対象地としている千業県の太平洋沿岸は地震と津波による被害が出ており、そのため当初の計画を一部変更して、海岸利用とともに、海岸防護のあり方を主題化することにした。 まず、海浜の利用にかかわっては当初計画のとおり、CCZ(コースタル・コミュニティ・ゾーン)計画やビーチ利用促進モデルの対象地域の現状を調査した。その結果、利用促進よりも海岸の防護に重点が置かれている実態を把握することができた。つまり、利用促進は事業につける「冠」であり、内実は海岸防護事業だということが明らかになったわけである。だがそうしたなかでは、館山市・北条海岸における試みが町づくりと一体になって実施され、発展性のある計画だということも判明した。ここから、広く「町づくり」のための一環という視点に立った海岸計画が求められていることが示唆されている。 次に、その防護に偏った海岸計画に関しては、利用上も環境保全上からも批判が多い。そこで、本研究が当初から設定していた理論的な枠組みの延長上で、「利用的な防護」という考え方を提示し、茨城県の鹿島灘の一部で実施されている素粒材養浜事業がそれに相当することを示唆した。ただしこの点について明確な評価を出すには10年単位での継続的な調査が必要であり、あくまでも可能性を指摘するにとどめるほかない。 最後に、本研究が基本的な視点としている保全的な利用原則を理論的に考察し、海岸などのコモンズ(公共空間)の私的な利用に関しては、(A)団体性、(B)必要性、(C)公益性の三つが条件になることを帰納的に提示した。これによって、本研究が出発点としていた「海の家」の海岸不法占用問題に対する、理論的な解決法を得たことになる。
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