本研究は「グローバル・ジャスティス運動」と呼ばれる、主義への新しい抵抗運動の実態と特徴をとくに文化実践の側面(「予示的政治」の側面)から明らかにすることを目的とする。予示的政治とは運動を社会変革という目的のための手段と見なすのではなく、それ自体来るべき社会を予示的に現出させているという思想であり、そこから従来の運動にないさまざまな特徴が生まれるものと思われる。 本年度(初年度)は、計画としては、(1)理論的整理、(2)聞き取り調査、(3)運動言説の収集整理を予定していた。 (1)に関しては、先行研究として、「コモンズの取り戻し」としてのグローバル・ジャスティスの側面をとらえているDe Angelisの読解をおこなった。本研究では彼が「コモンズ」を資本(および賃労働)の外部の運動としてとられる点を抑え、近年の不払い労働の再編を巡るホックシールドの議論と突き合わせた。 (2)に関しては、キャンベラのネットワークに聞き取りをする予定であったが、近年、発展の兆しがみえる東アジアのグローバル・ジャスティス運動ネットワークに目を向け、中国でソーシャル・センターの運営を始めたアクティビストにインタビューをした。ソーシャル・センターとは空家を占拠しオルタナティヴな文化・政治・生活の拠点にする、ヨーロッパや北米都市で広がつている運動である。今回のインタビューでは中国や東アジアの実践に関する自身の体験を話してもらい、貴重な示唆を得た。その他、グローバル・ジャスティス運動の研究者であり活動家でもあるデヴィッド・グレーバー氏にもソーシャル・センターの活動についてインタビューした。 (3)に関しては、オーストラリアおよび北米西岸都市を拠点とする運動グループのウェブ資料を中心に彼らの直接行動にかかわる言説を収集した。
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