環境社会学における合意形成論の研究誌を整理しながら、合意形成を大きく、(1)合理的手続き主導型、(2)共同体規範主導型、(3)公的機関主導型、(4)生活世界の存在根拠に連動する合意形成の4つに分類し、多様なパースペクティブからNIMBYを主題に掲げた研究のレビューをおこなうとともに、当該課題にかかわるより汎用性の高い合意形成論を展開するための論点を抽出した。 一方、迷惑施設の立地をめぐって現実に生起している合意形成の現場を説明するため、主として石川県輪島市門前町大釜地区において聞き取り調査を実施した。調査の対象となる地域は、能登半島地震によって、その疲弊した地域社会の実像が映し出された。なかでも、ムラが県内最大規模となる民間の産業廃棄物処理施設の誘致を決めた集落の選択は、奥能登の山村が深刻な過疎と高齢化で存続の危機に直面している厳しい現実を表象するシンボルとして報道された。ある限界集落の選択。それは決して特異なケースではない。産廃処分場の立地をめぐって、みずからの立場や主張の正当性を「環境」という課題に求めて競う環境紛争の射程は、私たちが依拠してきた、ときに「便所のないマンション」とも揶揄される社会・経済システムを支えてきた価値観や生活世界の存在根拠、換言すれば、大量消費・大量廃棄社会の内部の人びとの日常意識と無限幻想を支えてきた「間接化の構造」の存立を問う点にまで及んでいることを生活世界の実相から明らかにするための検討をおこなった。
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