合意形成論、リスク社会論など社会的意思決定に関する研究誌を整理しながら、迷惑施設の立地をめぐって現実に生起している合意形成の現場を説明するため、主として長野県安曇野市、や大町市をはじめとする長野県中信地区の自治体と岡山県津山市において聞き取り調査を実施した。調査の対象となる地域は、廃棄物処分場の立地選定が「民主的」で「科学的」な手続きのもとで進められたにもかかわらず、その帰結が地域社会の承認を得ることができずにいる。それは決して特異なケースではない。最終処分場の立地をめぐって、みずからの立場や主張の正当性を「環境」という課題に求めて競う環境紛争の射程は、私たちが依拠してきた、ときに「便所のないマンション」とも揶揄される社会・経済システムを支えてきた価値観や生活世界の存在根拠、換言すれば、大量消費・大量廃棄社会の内部の人びとの日常意識と無限幻想を支えてきた「間接化の構造」の存立を問う点にまで及んでいることを生活世界の実相から明らかにするための検討をおこなった。 本研究では、廃棄物処理問題に典型的に現れる環境リスクの受容をめぐる問題に直面する地域社会の現実に焦点をあてながら、社会的意思決定過程におけるコミュニケーションのあり方について考察をおこなってきた。そのうえで、環境に関わる社会的決定の仕組みは、「協議会」方式が一般的であるが、リスクの管理主体としての責任や、地域の時間的、空間的蓄積を反映することができず、構造的な問題があることをあきらかにするとともに、こうした検討を比較社会学的な視点をもっておこなうため、都市化と生活世界における物質化が社会の民主化とともに急速に進むネパール、カトマンドゥにおける廃棄物問題に関する基礎的な調査に取り組んだ。
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