本年度の研究成果の一つは、前年度来取り組んできたドッジ・ライン下における人員整理のなかで自動車工場からの女性の排除についての研究である。本テーマに関する査読付き論文を公表するとともに、その後入手することのできた資料等を追加・補足する形で学会報告を実施した。本成果は、日本の自動車産業における人員体制の研究にジェンダー的観点を組み込んだ点でユニークであり、これまで当然視されてきた男性中心の生産体制が、ドッジ・ライン下における人員整理を通して、女性をも含めた総動員体制的な戦時生産体制からの転換がはかられて形成されたものであることを明らかにしている。 第二の成果としては、科研費申請時に研究計画に掲げていた全日本自動車産業労働組合(以下、全自と略)関係の資料収集、整理についてである。これまで本研究の中心に据えてきた「浜賀コレクション」の目録作成に目処がたち、複写して保有している同コレクションのデータについては全てデータベースへの登録が終了し、一部資料についてはスキャナで読み取りを行い、今後の公開を念頭におきながら電子データ化を進めている。また、この資料収集、整理の途上で新たな資料として労働政策研究・研修機構に所蔵されている「高野実所蔵文書」に全自に関する資料が含まれていることを発見した。こうした資料収集の成果を踏まえて、「浜賀コレクション」の概要および既存の資料に対する意義等を明らかにした資料解題を発表し、全自に関係する文書の現状について解説した。
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